株式会社アークライト
代表取締役社長 福本皇祐氏

【PROFILE】

「ヒューマンコミュニケーションの拡大を通して、より活力のある社会を創造する」を念頭に、1998年、株式会社アークライトを設立。メーカーとしてオリジナルのカードゲーム・ボードゲームを開発し、「アークライトゲームズ」のブランドで製造販売を行う。また、月刊ペースで刊行されているテーブルトークRPG専門書籍『Role&Roll』を中心に、テーブルトークRPG及びその関連書籍の企画・編集・出版も行う。一方では、ボードゲームやカードゲームの卸売販売と流通機能を兼ね備えた事業を展開しており、カードゲームの専門店『ホビーステーション』(直営29店舗)を運営している。

http://www.arclight.co.jp/

「商品は知っているけど作っているメーカーのことは知らない…」「どんな人がこの商品に関わっているのだろう…」そんな商品を製造している企業や人たちにフォーカスを絞って紹介するインタビュー企画。第4回目のゲストは、製造・問屋・販売など多岐に渡り事業を展開されている、株式会社アークライト 代表取締役社長 福本皇祐氏。過去の数々の偉業も、決して驕ることなくサラっと「周りの人のおかげです」と語る福本社長には、歩まれて来た道の節目で、いつも“出会い”があり、その後繋がり、新たな展開が生まれるのでした。コミュニケーションを深めるためのボードゲームに、可能性と夢を見出した、熱いお話も必読なロングインタビュー!

[スピーカー]
株式会社アークライト 代表取締役社長 福本皇祐氏
株式会社カフェレオ 代表取締役 内山田昇平
取材日:2015年7月13日 場所:アルジャーノンプロダクト
構成:里見亮(有限会社日本産業広告社)

『突拍子もないところでやっていたから、今に繋がっているのかなぁとは思いますね』

内山田昇平(以下/内山田):今日はどうぞよろしくお願いします。

福本皇祐氏(以下敬称略/福本):こちらこそよろしくお願いします。

内山田:日頃の仕事のご縁の中で「どういうことができるのかなぁ?」と日々考えている中、社長同士の会話を通じてさまざまな角度から企業やお仕事の紹介ができないかという企画でして。なかなか『プレジデント』とかに載らない業界なもので(笑)

福本:(笑)

内山田:せめて、解る人たちに「あぁ、なるほどね」というお話をご紹介できればとトライアルしているのですが、過去3回やらせてもらって、おかげさまで評判も良くてですね…

福本:そうですね。顔ぶれを拝見しても、これはちょっと読んでおきたいと思いますものね。で、僕でいいのか?と思いましたけど(笑)

内山田:とんでもない。いろいろ人生と経営者の先輩からお話をお伺いしたく思っております。
ではまず、福本社長との始まりですが、一度とある席でご一緒させていただいて、その後『ダンガンロンパ 超高校級の人狼』の製造でお世話になりました。僕たちはダンガンロンパのグッズをやっているのですが、福本社長はボードゲーム全般に関わるお仕事をされていて。「人狼」に関連する商品を作りたいんだけど僕たちはマーケットがぜんぜん解らなくて、初めからいろいろご相談させていただきました。結果的には本当にそれが正解で大成功しまして。新しいマーケットに参入するときは慣れた方がいることでこんなにすんなり行けるんだなぁということを痛感したのを覚えています。多分、アークライトさんにお願いしなければこういう商品はできなかったと思っています。

福本:それはうちだけではなくて、旬だったダンガンロンパの権利を内山田さんがパッと取って来たというところがあって、やはり上手く行く時は期せずしていい要素が重なるじゃないですか。だから、うちだけでもできなかったし、たぶん内山田さんのところだけでもできなかったけど、出会ったことによって花開いたみたいな感じはありましたよね。

内山田:相乗効果はすごくありましたよね。

福本:ありましたね。

内山田:僕たちで言うと、キャラクターグッズの層が、噂に聞く人狼を初めてトライしてみたらものすごく面白かったとか、人狼のマーケットの人たちからするとこういうキャラクターものが入って来てそれはそれで面白かったとか、相乗効果が実際に形として見えて来るとすごく手応えを感じましたね。

福本:そうですね。『人狼』ってやっぱりロールプレイングの要素が強いので、感情移入したいキャラクターになれる!というのは大きかったと思うんですよね。通常の人狼だと、村人とか漁師とか抽象的なキャラクターじゃないですか?ダンガンロンパの「自分の好きなキャラクターになれる」というのが、非常に面白かったと思いますね。

内山田:普段、人前で話すことの苦手な人が、キャラクターを通して自己表現できてしまうという、すごく面白くて新しいコミュニティができている気がしますね。
人狼という商品は突然出て来たのですか?

福本:そもそも論で言うと、随分昔からある非常に古い遊びなのです。

内山田:そうなんですね!

福本:実際、人狼というゲーム性自体に何ら権利はなくて、だからいろいろなメーカーからいろいろな形で商品として過去に出て来ているわけです。日本でも今から7〜8年くらい前に一次ブームみたいなものがあって、結構遊んでいる方がいらっしゃったのですが、ここ数年でまた急激に注目されているという感じですね。

内山田:お互いに同業界ではあるのですが、僕、本当に福本さんをすごいなというか、尊敬してまして。なぜかというと、福本さん今、もの作りをされていて、輸入もされるでしょう?

福本:そうですね。

内山田:卸もされて、お店もチェーン展開されているという、要は多角経営をされているわけですよね。で、すごいですねと言うと、さらーっと「そんなことないですよ」と言われますが、とてもじゃないですけど僕なんかできないです。

福本:いえいえ、たまたまですね。

内山田:よくこういう話をしていると出て来るのが、「切り替え」をどうしているか?という話なのですが、福本さんはどのように頭を切り替えているのでしょうか?

福本:当社は出版企画からスタートしているのですが、ゲームの制作企画みたいなことをしていたので、ものを作るというのが発祥なんですよね。そこから、例えば小売店などをいきなり始めてしまった訳ですが、その時っていうのはやはり相当勇気がいったというか、自分でも何でそんなこと始めてしまったんだろう?という勢いで…。言ってみれば、突拍子もないところでやっていたから、今に繋がっているのかなぁとは思いますね。ただ、僕らがやっているボードゲーム、アナログゲームの世界というのは、そんなに大きなマーケットではないということもあって、ものを作るだけだと売上としても小さいですし、そうなるとよくある製造直販というモデルを作らないと利益が残らないよね、というのも正直ありましたね。

『本当の早々初期の土台を作ってくださったから、今の僕らがあると思っています』

内山田:ボードゲームというカテゴリーで言うと、アークライトさんってパイオニア的存在ではないですか?

福本:いえ、決してそうでもなくて、本当の意味でのパイオニアというと、「ホビージャパン」さんだと思いますし、ボードゲームというカテゴリーに関して言うと「すごろくや」さんとか、もっと言うと「メビウス」さんだと思いますね。それこそ、日本にボードゲームを入れるところが何もない時に、当時クリーニング屋さんをやりながら、片手間でボードゲームの販売をやっていたメビウスさんたちが、本当の早々初期の土台を作ってくださったから、今の僕らがあると思っていますね。

内山田:もともとこの業界に入ったきっかけは何だったんですか?

福本:模型の専門誌を発刊していた、ホビージャパンに新卒営業として入社したのが始まりですね。諸々あって、営業と言っても本を売る営業から広告、ボードゲームの営業やイベントまで、いきなり一通りの業務を教えていただきました。大変でしたけど、今考えるといろいろ経験させてもらったことに感謝していますね。

内山田:若い時にいろいろやらされると精通してしまうというか、怖いものがなくなるのはありますよね。

福本:そうですね。結構好きなことをやらせてもらっているうちに、いろいろなことができるようになって来た、そんな感じはありますね。でも、実を言うと模型の趣味もないし、入社するまではシュミレーションゲームもやったことがなかったのです(笑)ただ、出版には興味があって、出版でいろいろなことができるのではないか?と当時は思っていましたね。

内山田:その次の展開は…?

福本:ホビージャパンに10年くらい在籍して、次に遊演体という会社に4〜5年在籍していました。当時は、インターネットがまだなかったので、郵便を使ったメールゲームという商品があって。今で言う、オンラインのゲームを郵便を使ってやるというもので。

内山田:へぇー。

福本:それをやろうと思った理由というのが、丁度その時にソニーのプレイステーションやセガサターンが発売される手前で、ボードゲームの会社でいろいろな営業をやって来たのですが、当時はアナログの限界と言いますか、これからはデジタルが来るよねということで、デジタルの仕事をやりたいと思っていました。その時にプレステやサターンも随分ゲームソフトを作らせてもらいましたね。言ってみれば、デジタルの企画というものが求められていた時代ではあったので、僕らみたいなそんなに実績がなくても、いろいろな企画を持って行くと意外とそれが仕事になっていましたね。

内山田:いい時代でしたね。

福本:でしたね(笑)その辺りは内山田さんがよくご存知ではないですか?

内山田:そうですね(笑)丁度パソコン業界にいましたから。マーケットのサイズが、どんどん上がって行く頃でしたものね。
その後、独立ですか?

福本:実は独立したわけではなく、遊演体のデジタル部門の新規事業部を私が立ち上げ、任されていたものを分社したのです。

内山田:会社を持つ経緯はそういう流れもありますよね。
ということは、当時のアークライトさんは、どちらかというとボードゲームよりもデジタルのゲーム開発がメインだったんですか?

福本:そうなんです。その後、プレステも2、3と発展して行くのですが、そういう中で自分たちが作ったキャラクターが、世の中にこう…どんどん広がって行くようなことがぜひやりたいよね!と思うようになって行きました。アナログだとどうしても地味というか…キャラクターが世の中に広がって行くのが難しかったじゃないですか?ところが、デジタルの世界でどんどんプレステとかが広がって行く時は、ゲームがメディアとなって、その中でゲームの人気のキャラクターが世界に広がって行くという感じでした。当時は、そうなって行きたいなと思っていましたね。

内山田:やはりインフラが広がって行くと、自分たちも中に入って行かないと、不安になってしまうところが正直ありますよね。

福本:それはありますね。

『だから、相手のお役に立てるようにまずは頑張る!みたいな(笑)』

内山田:では、ボードゲームに話を移しますと、大きなムーブメントのきっかけになったものは何だったのでしょうか?

福本:実は、すぐにボードゲームに行ったのではなく、ワンクッション挟んでまして。当時、『マジック:ザ・ギャザリング』が日本でバーっとブームになり、デジタルな世界からトレーディングカードゲームに一旦入って行き、それに関するビジネスをしていました。その後、ボードゲームに入って行くのですが、きっかけはもの凄くシンプルな話でして…。当時のボードゲームというものはニッチの中でもさらにニッチなマーケットで、とてもじゃないけど市場はないような小さな世界だったんですね。そんな時に、ボードゲーム好きないろいろな会社の社長と言ったら大袈裟ですけども、業界関係者で親睦会みたいなものを始めたのです。5人くらいのメンバーで月一回会って、情報交換をしていました。それから、だんだんボードゲーム関係のメーカーさんとお近付きになって行き、『ゲームマーケット』という今もうちが運営しているイベントの中で、そういうことをやっているコアな方たちとも序々に仲良くなって行きました。あと、当時は無名でしたが、ボードゲームのデザイナーのカナイセイジさんなどがインディーズで活動されている頃で、そういった業界関係者とも序々に友達の輪が広がって行ったという感じでしたね。

内山田:その頃は日本製の物というよりは、輸入物で楽しむという感じだったのですか?

福本:当時はゲームといったらドイツゲームでして、ドイツの有名なゲームをやるのがみんなのステイタスでしたね。日本のゲームデザイナーが作ったものは、残念ながらまだまだ認められていないという状況でした。

内山田:なるほどですね。そういう人たちと集まりワイワイやりながら深めていったんですね。それからボードゲームのビジネスは輸入から始めたのですか?

福本:最初に始めたのは、ボードゲームの情報誌の出版関係から入り、そうこうしているうちに、「ボードゲームが海外で来てるよ!」となり、私、あの…いきなりラスベガスに飛んだんですね。全米というか世界のボードゲーム関係者が集まる『GAMA』というコンベンションがありまして、まぁちょっと行ってみるか!とボンと行ったのです。そこで、たまたま知り合いから紹介された、アメリカの大手のボードゲーム会社があるのですが、そこの方にいきなりメールで連絡しただけで会って、そこで…いきなり権利を取ってしまったんですね(笑)

内山田:あっ、もう意気投合して、いきなりみたいな!

福本:そうそう。日本語版のライセンスを取ってしまい、それが言ってみればうちのボードゲームビジネスの最初ですね。

内山田:すごいですね!いや、福本さんと話していると「あっ、そうなんですね」なんて答えてしまうのですが、やっていることが都度その場で決断されていて!それがすごく多くて!結構サラッと「そこで契約結んで…」って言われますけど(笑)

福本:自分の会社に関してはある意味一人で決められるというか、小回りが効くところが僕ら中小企業の良いところだと思うので、その都度決断は早くとは思っていますね。

内山田:それと福本さんは、コミュニティをとても大事にされていますよね。

福本:そうですね。商売って人の繋がりなので、だからやっぱりご縁は大事にしたいですね。

内山田:僕も福本さんから様々な方をご紹介いただいて、すごく感謝しているのですが、この歳になって来ると20代や30代の頃の出会いとまた重みも違って来るじゃないですか?だから、そういうきっかけでビジネスにまで繋がるとすごくうれしいのですが、人によってはすぐに利害関係を迫る方もいて。けれど、福本さんは何か純粋に、出会えたら面白いんじゃないか?という感じで、その辺りはずっと変わらないですよね。

福本:例えば内山田さんと商売的に太くやって行くためには、まずは内山田さんにgiveして、何か私がやったことで内山田さんに商売上での発展があれば、初めてこちら側からtakeできるといった感じがあって。だから、相手のお役に立てるようにまずは頑張る!みたいな(笑)ファーストコンタクトって重要ですよね。


内山田:コミュニティ。定期的に「雑談」できる関係はすごく重要だと思います。

福本:本当そうですよね。あと、トップクラスの方って持っている情報が他とは違うので、そういう方たちとお会いしていろいろな情報共有をするということはとても重要ですね。

内山田:精度が違いますよね。精度が高いので決定する時のスピードが早いということだと思うんですよね。

福本:そうですね。

『僕ら“接触感染型”と呼んでいるのですが、接触して、感染して、拡げてくれるんですよね。非常に面白いなと思っています』

内山田:市場環境を見ていると、ネットでのコミュニケーションがあるのですが、また少しこういったボードゲームなどのface to faceの場が、尊重されて来ている気がするのですが。

福本:私がTCG(トレーディングカードゲーム)とかボードゲームをメインにやって行こうと思ったのは、実はそこなんですよね。ネットはPCでも携帯でも繋がれるけれど、人間って動物じゃないですか。やはり、バーチャルなメディアだけだと満足できないというか、こうして実際に会って話すことによって癒されるというか、コミュニケーションが成立するところがあって。ある意味、ネットが発達すると、会わなくてもやりとりができるので、意外にコミュニケーションが薄まるんですよね。ところが僕らがやっているボードゲームなどは、人と人が会わないとプレイできないじゃないですか。だから、遊ぶ楽しさもそうですが、コミュニケーションを取りながらコミュニティが広がって行く遊びなので、そういう意味ではこれからの時代に注目されると思ってやっていますね。

内山田:ボードゲーム自体の仕組みを使えば、例えばシニア層での遊びとか、エデュケーションだったりとか、発展形のものが生まれる可能性もありますよね。

福本:ドイツなどに行くと、あまりTVゲームが家庭に入っていなくて、みんなで食事が終わるとボードゲームで遊ぶんですよ。あと、ドイツの何万人も入る大きなボードゲームのイベントに行くと、おじいちゃん、おばあちゃんと孫が同じテーブルでわいわい遊んでいるんですよね。年齢、性別関係なく楽しめるのが、ボードゲームだと思うんです。

内山田:ボードゲームって今どれくらいの種類があるのですか?

福本:世界で発売されるのが、年間1000種類と言われています。それに対して、日本で発売されるのが、年間で400種類なんですよ!世界の1000種類はメーカーが作っているのに対して、日本の場合はコミケなどの同人で作られているので、1000にカウントされていないんですよ。日本だけで400種類というのはすごいことだと思いますね!

内山田:それはすごい!

福本:だから、日本はこれから面白いと思います。しかも、発展途上だと思っていて。日本のボードゲームの市場はここ数年で急激に拡大しているので。ブームどころか、まだまだ入口ですよね。

内山田:こんな成熟した日本の市場で、まだ発展途上なカテゴリーがあるって貴重ですよね!

福本:そうですね。まぁ、元が小さいものなので(笑)小さいところからスタートしているからまだまだですが、いろいろホビーのお仕事をやらせてもらっている中で、この伸びというのはなかなか他にないとは思いますね。

内山田:いや、でもやっぱり僕は、趣味というものはマイノリティというか、狭くていいと思うし、そのマーケットを伸ばせる体験ができるということは、とても良いことだと思うんですよね。

福本:あと、ボードゲームの面白いところが、僕ら“接触感染型”と呼んでいるのですが、例えば、『ダンガンロンパ 超高校級の人狼』を買ったら、友達と遊ぶしかないから、5〜6人集めますよね。そうすると、一緒にやって遊んで面白かったという人たちが、接触して、感染して、拡げてくれるんですよね。やっているお客さまが伝道師となってどんどん拡げてくれるところが、非常に面白いなと思っています。

『譲っていただくことで、潰せないというプレッシャーはありますね』


内山田:お店についても伺いたいのですが。

福本:はい。1号店は秋葉原に出したのですが、正直、最初の1年は本当に厳しかったですね…。人は来ないし、売上は上がらないしで…

内山田:やっぱり、我慢しました…?

福本:我慢どころじゃなかったですね(笑)

内山田:でも、勝算というか、どこかに何かあったから我慢できたのではないですか?

福本:いや、負けたくなかったんだと思います(笑)

内山田:あぁ、なるほど。

福本:ものを作るってハードルが高いし、自分たちがメーカーになれるわけではないし、製作やイベントを請け負ったりするのですが、なかなか定期的に売上が立たないんですよね。そういう時に店舗があると、基本的に毎日売上が立つんですよね。

内山田:トレンドも解りますしね。マーケットのデータも取れるし。

福本:その通りなんです!もちろん、軌道に乗せるまでが大変ですが、毎日売上も立つし、お客さまが今、何を求めているか?という生の声が拾えるから一石二鳥じゃん!と思って始めたのですが、小売店のノウハウが何もない中だったので…。いやぁ、当時は周り中から反対されましたね。

内山田:そうだったんですね。でも、そこを貫いたのは…

福本:意地もあったけど、最終的な目標としては、やっぱり「製造直販」というところにどうしても繋げて行きたかったからですね。その輪を広げるためには、ここで絶対負けるわけには行かない!と思ってやっていましたね。
でも、1年くらい経つと不思議なもので、少しずつお客様が付いて来てくださるんですよ。本当に、継続は力なりだと思うのですが、少しずつ少しずつお客様が増えて、売上も立つようになり、認知もされて来て、2号店を出すことになって行きました。

内山田:ちなみに今は何店舗運営されているのですか?

福本:29店舗です。

内山田:おお!!また福本さん、サラッと言うけど…すごいですよね!でも、お店もいきなり29店舗になるわけじゃないだろうし。やっている中で、段々と右肩上がりになって行くものなのでしょうか?

福本:いろいろ小売店をやられている方とお話するのですが、皆さん押し並べて言われるのは、1個成功例ができると強い、もうこれに尽きますね。お店をやっていると、緩やかな曲線での成長なんて有り得ないんですよ。やっぱりその、たまたま突出して、利益が出るお店が出て来ることがあるのです。どういうことをやれば勝てるか?そのパターンを作るまでが大変なわけで、パターンが作れたらその事例をコピーして行けばいいのです。

内山田:でも、製造・問屋・販売の3つをやられている会社はこの業界でもめずらしいですよね。


福本:そうかもしれないですね。ただ、問屋部門というのは私が作ったものではなくて。元となるボードゲームの問屋さんは、私がホビージャパンにいた頃に担当していた問屋さんで、その方が引退される時に「福本君、君に譲るよ」という形で譲り受け、今やらせていただいているので、物流をゼロから育て上げたわけでは全くないんですよ。

内山田:いや、でも、一から作った方が、ある意味自分で潰すこともできますからね。逆に、譲り受けて事業をやる方がよっぽど難しいと僕は思いますね。

福本:まぁ、それはその通りですね。ある意味、譲っていただくことで潰せないというプレッシャーはありますね。

内山田:今後のお店の展望は?

福本:専門店というカテゴリーにおいては、No.1という地位を確実に作りたいと思っています。業界No.1でないと、そのカテゴリーで生き残るのは難しいじゃないですか。やはり、利益を得るのはNo.1だけなので、そこはきっちりやって行きたいと思っていますね。

『組織作りのコツは、人に任せる、ってことじゃないですかね(笑)自分にそんな能力はないので』

内山田:それとイベントも、運営されていますよね?

福本:『ゲームマーケット』というイベントを事業としてやらせてもらっているのですが、これもまた不思議な話で、元々は草場さんと言う方が16年前に、これからのボードゲームのマーケットを作るには、クリエイターたちが作ったものを持ち寄って発表できる場所を作らなければだめだ、ということで、同人の場所を作って運営されていました。で、先程お話したボードゲーム好きな社長たちが集まる場所に、その関係者が居まして、『ゲームマーケット』というイベントが大きくなって行く中で、もう同人では運営できないレベルになっていたんですね。そこで、「アークライトさんで引き受けない?」となり、なぜかうちに事業を持って来てくださいました。

内山田:福本さんはやられている中で、節目節目にそういう出会いがあるんですね。

福本:そうなんですよ。問屋もそうですしね。

内山田:やっぱり、任せられるというか、安心感が福本さんにあるのでしょうね。
ところで、僕らのマーケットは今、キャラクターグッズとか、女の子がとても元気なマーケットだと思っています。だから、アークライトさんとのジョイントで、こういったターゲット層に対しても、相互で発展できるよう何かができればいいな、と思いながらお話させてもらっています。

福本:そうですよね。僕らが『ゲームマーケット』をやっていて、びっくりすることがいくつかあるのですが、その一つが女性率が高いということなんですね。

内山田:元々高かったんですか?

福本:いえ高くなって来たのです。その理由の一つが『人狼』ですね。『人狼』でアナログゲームで遊ぶきっかけに、それ以外のアナログゲームを知り、若い女性の方たちが友達を連れて入って来るみたいな感じなので、それこそ今後内山田さんとジョイントして、いろいろな仕掛けで面白いことをやって行けるのではと思っていますね。

内山田:改めて、これだけ多岐に渡り事業を展開されているわけですが、「福本的組織作りのコツ」みたいなものがあれば、ぜひお聞かせください。

福本:『人に任せる』ってことじゃないですかね(笑)自分にそんな能力はないので。やっぱり適材適所で、ここは任したぞと。ただ、ポイントですよね。年間での予算と目標をしっかり立て、うちの場合毎月部門のトップが集まった業績発表会をやって、お互いに見える目標が明快にあるという形は取っていますね。

内山田:福本さんとはマーケットのお話はよくさせてもらっていたのですが、こうした経営論はあまりお話したことがなくてですね。やはり、これだけの事業を回して行くには、組織ができないと到底できないですよね。

福本:企業は『人』ですよね。はっきり言って。

『ボードゲームはいい意味で敷居が低い、しかも、いい感じで“世界”がある』

内山田:では、終盤に入って行きますが、会社自体の今後の方向性についてはどのようにお考えなのでしょうか?

福本:はい。うちの会社として明快な一個の括りがありまして、それはやっぱり「ゲーム」というのがキーワードなんですね。いろいろな事業をやっていますが、形は違えど皆ゲームに携わっているもので。まず柱として、ゲームをやる会社だよね、というのが前提でして、しかもデジタルではなくアナログの「人と人がコミュニケーションを取るためのゲームを作る」というのが大目標で、そのアナログゲームというカテゴリーからすると全部オールラウンドで押さえる、というのが戦略なんですね。理由としては、マーケットがまだ小さいので、どれか一つのカテゴリーだけで食べて行けるほど甘いものではないから、川上から川下までを押さえて、その各カテゴリー毎できっちり利益を得られる形で、付加価値な事業をできるようにするのが一つ。

内山田:ユーザーは守れるというか、『育つ』環境になりますよね。

福本:そうですね。中長期的にということで、次に考えてやって行きたいことは、今は海外の人気ゲームのライセンスを取って、日本語版として売ることがメインのビジネスとなっていますが、日本のゲームクリエイターが日本で作ったり育てた企画を、日本だけではなくて世界に広めて行く、という方向に持って行きたいと思っていまして。英語版、日本語版、ドイツ語版、フランス語版、中国語版と、5ヶ国語を一度に作って、それを世界中に持って行くという事業をやりたいと思っていますね。

内山田:ボードゲームってそういう可能性ありますよね。

福本:しかも、「紙」ですから。紙のゲームのいいとことは、アイデアさえあればいつだって気楽に作って、ゲームマーケットの机の上にバーって広げて売れることだってできますし。だからクリエイターが増えているんだと思います。PCゲームとかデジタルはノウハウがいるし、簡単なわけには行かないじゃないですか。

内山田:もしかしたら、そういうところにもっと一度立ち戻って行かないと、本当の意味でのクリエイターって出て来ないかもしれませんね。

福本:そうですね。日本のボードゲームのイベントの、来場者数における外国人の割合がすごい高いのですが、それは世界中からボードゲーム好きが集まり、買いに来ているからです。同人が作っているので、その場所でしか買えないから。「どうも日本には面白いモノがあるらしい」と増え出しているのです。なので、そういう人たちに売って行くことをやれば、やれるんじゃない?というのが今考えていることですね。日本発で世界中に売って行くような世界を作って行きたいですね。

内山田:ドイツやアメリカで流行っていると聞くと、ボードゲームは先進国の遊びというイメージもあるのですが。

福本:そうなのですが、今、ボードゲームは、発展途上国にもどんどん広がっている部分があるんですよ。ボードゲームって紙でしょう?電源いらないでしょう?場所を選ばない。そういう意味では、先進国だけではなくて、ロシアとかアフリカやアジアなど本当に伸びて来ていますね。
ちなみに、この前ドイツで、「年間ボードゲーム大賞」というものが発表になったんですよ。これは、言ってみればボードゲームでいうアカデミー賞みたいなもので、前年に発売された世界中のゲームの中から、面白いと思ったものを審査員が選んで行くのですが、その最終5個に絞られた中に、日本のグランディングという会社の『街コロ』というゲームが選ばれたんですよ!もうこれはすごいことで…。大賞は残念ながら取れなかったけれども、最終に日本の作品がノミネートされるなんて!僕らが想像している以上に、日本のボードゲーム、クリエイターは世界中から注目されているし、今回の『街コロ』が最終にノミネートされたことで、世界の目がさらに日本に向けられて行くことは間違いないですね。

内山田:そういう風になってくれば、クリエイターたちも挑戦する理由ができますものね。

福本:世界一になれるかもしれないですよ!ボードゲームで。

内山田:やっぱり、アイデアというのはすごく大事だと思うし、そういうところに立ち返って行かないと、下の世代も育って行かないですものね。

福本:何か自分のアイデア一発で、世界中に配信できると思うし、クリエイティビティのあるものとして、ボードゲームはいい意味で敷居が低い、しかも、いい感じで“世界”がある、というところは、僕はとても面白いと思っていますね。

内山田:そういう意味で言うと、今、アークライトさんがやられている役割というものが全方位で活かされるというか、これからが楽しみですよね。

福本:日本のシステムみたいなものを一気通貫で作っていますが、最終目標は、それを世界に広げて行きたいということですね。それと、日本の優秀な作品、クリエイターを世界に広げて行けると楽しいなと思っていますね。
日本のキャラクター文化は世界に確固たるものなので、内山田さんともぜひまた、何かご一緒できたらと思っています。僕らに欠けているのはキャラクターの分野なので(笑)

内山田:ぜひ一緒にやりたいですね。僕らからすると新しい市場なので、上手く融合して何かプラスαなものを生み出して行くと、新しいカテゴリーができてくるかもしれませんしね。
今日は貴重なお話をたくさん、ありがとうございました!

福本:こちらこそ、ありがとうございました。


『ゲームマーケット2015秋』

ゲームマーケットは“電源を使用しない”アナログゲームユーザーの交流と振興を目的とした国内最大規模のゲームイベントです。

 

 

名称:ゲームマーケット2015秋
開催日:2015年11月22日(日曜日)
会場:東京ビッグサイト(東京国際展示場) 東4ホール
(〒135-0063 東京都江東区有明3-11-1)
開催時間:10時〜17時
入場料:入場チケット付きカタログ 1500円(税込)【事前・当日】
入場チケット 1000円(税込)【当日のみ】
※小学生以下は保護者同伴で入場無料、中学生及び高校生は学生証の提示で入場チケットが無料になります。
※入場には「入場チケット」が必要です

★ゲームマーケットについての詳しい情報は公式サイト
http://gamemarket.jp/
をご確認ください。


『JGC2015』
(ジャパン・ゲーム・コンベンション2015)

 

 

名称:JGC2015(ジャパン・ゲーム・コンベンション2015)
開催日:2015年9月4日(金)~ 9月6日(日)
会場:新横浜プリンスホテル(神奈川県横浜市港北区新横浜3-4)
参加費:当日参加・1日500円 (宿泊参加・募集終了)
公式サイト:http://www.arclight.co.jp/jgc/
運営:アークライト
旅行主催:JTB関東
イベント主催:ゲーム出版懇話会、JGC実行委員会

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